Ⅲ 毒親

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 そして今日、私は覚悟を決めて塾を出る。  今の時間は、10時。  外は物凄い暗闇だ。  塾から出て暫くは、まだ塾生徒がいるので安心だ。  しかし、問題は突き当りを右に曲がった時に始まる。  四音には、この付近で待機してもらっているはずだ。  一旦、立ち止まる。体の震えが、もう始まっている。 (大丈夫…。今日は天羽さんがいるわ…。何も、心配することはない。)  深呼吸をして、前進する。  5歩目にはもう、塾生徒の騒がしさは消え、本当の静けさが広がる。  静けさも、一つの恐怖だ。  それでも、私は進む。今日は、何としても突き止める。  時計を見る。10時10分。  足音が聞こえてくるのは、これくらいの時間だ。  嫌でも、私は耳を澄ましてしまう。    ――聞こえた。  今、足音が聞こえた。そして、確実に私についてきてる。  振り返ってはだめだ。作戦が台無しになる。  それでも、敵に背中を向けていると思うと怖くて仕方がない。  私は目をぎゅっとつむり、現実から切り離そうとする。  でも、切り離すことなんて出来ずに、足音は近づいて来る。  走ってもいないのに、息が上がり始める。  冷や汗が、背中を伝う。  恐怖は、すぐそこにあるんだ。  でも、耐えなくてはならない。  耐えて、耐えて耐えて―― 「あの、ちょっと?」  聞きなれた声が静けさを破る。四音だ。  この声を聞いた瞬間、私は安堵に包まれる。  振り返る。  そこには、四音と物陰に隠れている人物がいた。  これが作戦である。  私が塾から帰り、その後ろから四音がスマホのカメラを構えながらやってくる。無論、カメラはストーカーを写すためのものだ。  十分にストーカーの証拠を撮れたと分かった瞬間、四音がストーカーに声をかけて、動画を見せて"今から警察に届けに行く"という。    そして、声をかけるところまでは上手く行ったようだ。 「天羽さん! 良かった…。証拠動画は撮れた?」  そう聞いて近づく。この距離なら顔が見える。  その顔にひたすら文句を言ってやろうと、顔を見る。
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