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(何なのよ…! 誰なのよ…! やめてよ、ついてこないで…!)
苛立ちと焦りと怖さで、私は思わず振り向く。望んでもいないはずの行動なのに、したくないはずなのにしてしまう。
誰も、いない。
足音も、聞こえない。
誰もいないのが、この際結果として一番いいはずなのに、私の目には涙が浮かんでいた。
先ほどの感情に、悲しみが追加される。
人は、多くの感情を一度に発揮すると、耐えられなくなって爆発してしまうのではないか。
私は、耐えられなくなって爆発するように、走り出す。
無論、足音もそれと同じように走る。
今度は、後ろに気配まで感じる。
「いやぁっ! ついて、こないで!」
静かな住宅街に、場違いの大声が響く。
しかし、尚も私を襲うのは足音と気配。
私の静止は、聞いてもらえない。
私はひたすらに、家に向かうことだけを考えていた。
前方、もうそこには家がある。
暖かな色味を帯びた光が、近づく。
(家についてしまえば、もう追われる心配はないのよ…! 早く、早くしなくちゃ…!)
気持ちも体も焦りで満ち足りている。
でも、気持ちとは裏腹に削られる体力。
そろそろ限界を迎え始めている。
息も絶え絶え、走るスピードも徐々に落ちていく。
それでも、私は死ぬ気で走った。
走って、走って走って走って――
(ついた…!)
敷地内に入った私は、急いでオートロックの鍵を開け、マンション内へ入っていく。
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