佐藤さんの幸せな悩み

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「直樹っ! 直樹っ!」  妻の声に、ハッと目を覚ましました。オレは、ソファーでスマホを握りしめたまま、寝てしまっていたようです。 「ヤバい! 破水してる! 気持ち悪いよぅ」 「えらいこっちゃ!」  病院に連絡をして、車でとんでいきました。ふたりで名前どうしよう? と言いながら。  それから、数時間後。元気な産声が聞こえました。 「陽子! ありがとう! お疲れ様」  出産に立ち会い、あまりの感動に号泣しながら、妻に言葉をかけました。 「元気な男の子ですよ」 「はっ?」  男の子? 女の子やなかったの? 「おちんちんが隠れてたみたいね~! 恥ずかしがり屋さんかな?」  ナニソレ? 先生、軽っ! 「名前、どないしよ?」  元から決まっていなかった名前ですが、女の子の予定が男の子で、さらに頭の中が混乱中です! 「直樹」  妻が私の手を握り、優しい口調で言いました。 「直樹の『直』と陽子の『陽』をとって『直陽(なおひろ)』にしよう。かぶってもいいやん?」  その時の妻の顔は、お釈迦様のように穏やかで、後光がさしていました。 「なおひろ。うん! そうしよう! この漢字ならかぶらんやろう。かぶっても、この子は、世界でひとりしかおらんからな」    名付けという名の幸せな苦悩の日々は終わりました。次は、子育てという名の幸せな苦悩の日々が始まります。  産まれてきたすべての命に幸あれ!
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