惑星はラムネ色

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溶け出してしまいそうなほど暑い、夏休み最後の日に僕は走っていた。生まれて初めての家出は、思っていたより爽快ではなかったけれど。僕の髪をからかうクラスメイトや、授業について行けない焦燥感が苦しかったから、僕は母に全部ぶつけた。返ってきたのは頑張りなさい、という投げやりな返事だった。一方的に責めたてる母に嫌気がさして、僕は家を飛び出した。 どこへ行きたいのか、どこまで行けばいいのかわからないまま、僕は走っている。  ふいに、僕の視界がぐらんと歪む。熱中症、という言葉が頭によぎった。突発的に飛び出してきた僕には、水筒も、ペットボトル飲料を買うお金もなかった。さすがに自分の家に帰るのはきまりが悪くて、祖母の家に向かう。  空き地ばかりで人通りの少ない道を下を向いてとぼとぼと歩く。ふと誰かにぶつかった。 「大丈夫?顔真っ赤だよ。」 すみません、と言いながら顔を上げると、黒髪の女の子がラムネ瓶を二本持って立っていた。とりあえずこれ飲みな、と差し出されたラムネ瓶を受け取って僕たちは近くの空き地のへりに座る。 「君、そんな暗い顔してどうしたの?せっかく楽しい夏だっていうのに。」 彼女がいたずらっぽく笑ってみせる。 「あ!わかった!家出してきたんでしょ。」 ピンポイントで当ててくる彼女に、どう返答したらいいかわからなくて、僕は黙る。  それくらいわかるよ、と彼女がまた笑う。家出の理由も聞かれたので、僕は黙って自分の髪を指さした。僕の髪は色素が薄く、茶色や白色の髪が混在している。僕に聞こえるか聞こえないかのぎりぎりでじじい、と笑うクラスメイト。二度見してくる人々。そんなことないよ、と思ってもいないことを言う両親。皆が自分を異質的に扱っているようで嫌だった。 「へぇー。その髪、私は好きだけどな。太陽に当たるとすっごく綺麗だし。」 慰めなんていらないよ、という言葉を直前で飲み込んだ。嫌われたくないという思いを抱く自分が情けない。  「そんなことどうでもいい。それより…どこかに逃げたい、ここじゃないどこかに。」 考えるよりも先に口が動いていた。唯一心を許せる祖母にさえ言わなかったことを、会って数分の彼女に話している。 「ほんとにそう思ってる?じゃあさ、じゃあさ、私と一緒に帰ろうよ。ビー玉の惑星に。」 ラムネの中の青いビー玉を揺らして彼女が言う。
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