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2011年2月12日
昨晩まで降っていた雪は、朝起きたときにはやんでいて、街は雪化粧に包まれていた。
しかし、俺が駅から一歩出たとき、ペデストリアンデッキは端に雪が避けられていて、路面も全く凍っていなかった。大切な志望校の受験日に、滑って転ぶことはなさそうだ。俺は心の中で雪かきをしてくれたであろう駅員に感謝した。
寒さに身を縮こまらせながら、コートのポケットに手を入れて、俺は地下鉄乗り場へと歩き始める。
今日は土曜日で三連休の中日だということもあって、八時なのにペデストリアンデッキを行き交う人々は多い。通勤ラッシュと観光客が重なって、冬の装いをした人々が、駅に吸い込まれ、また吐き出されていく。
俺の家は仙台駅から二駅離れたところにあるが、それでも週末の度に友達と駅前まで遊びに来ていたから、意識せずとも地下鉄乗り場までたどり着くことができる。
乗り換え時間にも余裕があり、俺は逸る心臓を抑えるように淡々と歩いていた。
彼女はペデストリアンデッキの真ん中で佇んでいた。俺がまだ買ってもらえていない、スマートフォンとにらめっこをしている。
ロングコートに紺のスカートを穿いているのを見ると、観光客ではないようだ。俺と同じ年頃の女子だけれど、その制服は俺には全く見覚えがない。
行き交う人々は、彼女に声をかける様子もなく、凍てつく空気のように冷たかった。
だけれど、俺も他人に構っていられるほどの余裕はない。なるべく離れて素通りする。誰か親切な人間が、きっと助けてくれるだろう。
なのに、彼女はスマートフォンから顔を上げて、俺を見るやいなや歩み寄ってきた。
耳が隠れる程度のショートボブが、大人しい印象を与える。俺も大概背が低いが、彼女は俺よりもさらに小さく、あどけない顔立ちも合わさって、制服を着ていないと小学生にさえ間違われてしまいそうだ。
彼女は俺の目の前まで来ると、優しく微笑んだ。俺が立ち去ってしまわないように、繋ぎ止めようと思ったのだろう。そこまでされたら、俺は無視できない。
「すいません。地下鉄乗り場って、どう行けばいいか分かりますか?」
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