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瞬間、すっと女の顔が青ざめた。
店主は顔いろも変えず女を見続けた。
「私は……」
視線が落ち着きなく彷徨う。
湯呑みを持つ手が小刻みに震えた。
「私、私は……」
「すべて話していいのですよ」
「あなたは何を知っているの」
「私は何も知らない」
「嘘よ、知っているでしょう。知っているからそんなことを言うんでしょう」
店主はじっと女を見る。
女は震える手から茶碗を取り落とし、熱い液体が畳に広がった。
「話しなさい」
「いやよ」
「話に来たのでしょう」
「話すのはあなたの方よ」
店主の目が鋭くなる。
女には間合いが急に近くなったように思えた。
「話さなければどうなるかわかっているのですか」
「わからない……わからない。いやよ。いやよ。いや」
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