或る骨董店の客

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 女の口からもうもうと黒い煙が湧き上がる。  まるで胎内で猛烈な火を焚いているようだった。  女は天井を仰ぎ、大粒の涙を流した。 「私が……殺した」 「そうです。あなたが殺した」 「私が……あのひとを」  店主が立ち上がる。  女から目を離さず片手を自分の背に回した。  女は黒い煙を吐き続けた。 「私が……」  女の声はもはや声ではなかった。女の体から出た毒をもつ煙が部屋全体を覆っていく。瞬く間に一切が闇に染まっていった。女も、店主も黒い幕に隠された。  突如廊下と庭を隔てたガラス戸が音を立て一斉に開け放たれた。  風が渦を巻く。  疾風が駆け抜け、艶やかな黒い影が横切った。  天井が開き、青い空が透ける。  黒い影は天を遮り旋回し、大きく音を立てて羽ばたいた。  店主の手には黒い大鎌があった。  煙はほとんど消え去っていた。  静かに女に歩み寄る。  女の目に青い空が映っていた。  しなやかな動作でそれを振り上げる。  女に向かって一閃に、薙いだ。
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