或る骨董店の客

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 店主は店先に座り茶をすすっていた。  目の前の棚には一羽の小ぶりなカラスがとまり、店主を見ている。 「君が来なければ危ないところだった。彼女が笑顔で帰ってくれてほっとしたよ」  カア、とカラスが一声鳴いた。 「夫を殺したと言っていたが、彼女の妄想だね。余程苦しんだだろう。妄想が過ぎると逆にそれは彼女の命を奪ってしまう。ただあの塊は夫への不満だけではないようだ。いったい彼女に何が溜まっていたんだろうねえ」  またしてもカア、と返す。何を言ってもカアとしか返さないが、それで会話は成り立っているようだった。 「それにしてもよく連れてきてくれたね。見えないものが教えてくれたが、僕には見つけられなかった」  今度はカ、と短く鳴いて首を竦める。褒められて喜んでいるのかと、店主は流し目で笑う。 「彼女が持っていた黒いものは大鎌で祓ったけれど、彼女が頑張らなければ元の木阿弥だ。黒い煙はまた彼女に宿る。こういうことばかりだ。まったく僕の仕事も報われない。彼女はしっかりやってくれるかな」  今度はバカァと鳴いたようだった。店主は顔をしかめた。文句を言うなというところか。  カラスがバサバサと羽ばたくので、店主は苦労して建て付けの悪い戸をガタガタさせようやく開けた。待っていたようにカラスは戸の隙間から飛び出して行った。 「今度はどこにいくのかね。まったく忙しいことだよ」  店主はもう一度苦労して戸を閉めるとカラスが飛び去った青空を眺める。 「まあとにかく、婆さんの淹れたお茶がうまいのはいいことだ」  店主は満足げにひとりごち、また茶をすすった。
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