或る骨董店の客

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「店主を呼んでください!」  ガラス戸が割れんばかりに勢いよく開き、カツカツと靴跡も高らかに乗り込んできた者があった。  普段は立て付けが悪いのに、と長年店にいる老婆は顔を上げた。いつものことだ。 「はいはい」  飛び込んできた客に一瞥をくれると、なにくわぬ表情をして曲がる腰で奥に引っ込んだ。  店の真ん中で怒りの形相で仁王立ちする女はこぶしを握りしめ打ち震えている。歯軋りの音さえ聞こえそうなほど口元を歪め、店の奥を凝視していた。 「何かな」  飄々と返事をし顔を見せたのは着流しの男だ。 「どんな御用」  袖に手を入れ呑気な表情をして、白足袋に雪駄を突っかけて出てきた。  店は古い骨董店だが、所狭しと物が並ぶといったところがない。閑散として塵ひとつなく、両の壁を埋める棚にいくつかの古めかしい、出自も定かでないような壺や小物が並んでいるだけだ。  木枠のガラス戸を挟むように、ギョロリとした目をした信楽の狸に似た大きな置き物がいて、入ってきた客を凝視している。間口が狭く、店の入り口の半分ほどを二匹の狸が占めていた。
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