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女は三方から視線を集めていることも知らぬかのように、つかつかと呑気顔の店主に歩み寄った。
「うちの夫をどこに隠したのですか」
「さあ。知らないね」
「奥にいるんでしょう」
「どこぞに旅にでも出ているのでは」
女は怒りが沸騰し声を失った。
見れば寒くもないのに赤い冬物のコートを着込んでいる。目にも鮮やかな血のような真紅だ。裾からちらりと見えるスカートの漆黒はまるで喪服のようにも見える。
店主は目を眇め一瞥すると、ぱらりと雪駄を脱ぎ捨て奥に上がった。
「お帰りください」
「そんなわけがない!」
金切り声を上げた女はかかとの高い靴を脱ぎ捨て、つんのめるように男を追った。
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