或る骨董店の客

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 廊下の最奥へ辿り着くと、店主は右手にある座敷へとふらりと消えた。  追いついた。  この先は行き止まりであろう。  女はコートを脱ぎ捨て、嬉しげな表情を隠しもせず、店主のいるはずの部屋へまろび入った。  かん、と鹿威しの音が響いた。  女が膝をついて息を切らし見上げると、店主はすでに座敷の上座に座っていた。 「ここまで来られたのなら、どうぞ」  広い部屋だ。二十畳ほどはあるだろうか。あの間口の狭い店の奥に、これほどの広間があるとは考えつかない。 「そこへ」  店主が指す方には座布団と湯気の立つ茶が置かれている。  女は縺れる足で立ち上がり、座った。 「お茶でも」
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