或る骨董店の客

　女は捻りあげるようなしゃくりを上げると、奥歯を噛みしめながらそのまま畳につっぷした。肩が揺れ、潰れるような嗚咽が堪えきれないように漏れた。

「私だって知っていた。あのひとに女がいることは。黙って見ぬふりをしていたのよ。私に魅力がないのは知っていたから。だから全部捧げてきたのに。仕事も、子供も、諦めて、全部、何もかも……」

　あ、あ、ああ、と喉の奥から唸りのような声を吐き出す。
　店主は身動ぎひとつせず女を見ている。

「なのにあの女に子供ができて、私を不要だと言ったのよ、あいつは。あいつは！」

　胸を掴んだまま片手で身を起こし、店主ににじりよる。

「許せなかった。私を捨ててあの女の元へ行くあいつが。全部、全部捧げたのに！信じて捧げたのにあいつは！私の人生を全部、全部！！」