或る骨董店の客

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「どうぞ、ひとつ」  店主の静かな声音に導かれるように女は大人しく元の場所に戻り、茶碗を手に取った。  ゆっくりと口をつけ、啜る。  ゆっくりと熱さが喉の内側を伝う。  ほう、と息を漏らした。 「……それで、どうしたのですか」 「……え?」 「よく思い出して御覧なさい。離婚届を見せられたあと、あなたはどうしたのですか」 「あいつは出て行ったのよ。私は方々を探して……」 「よく、思い出して御覧なさい」 「思い出さなくてもわかっているわ」 「そうですか? 忘れていることがありませんか?」 「忘れていることなんて……」
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