Act 0 〜Prologue〜

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これは一旦、実家に帰るべきなのかな……? でも、あの田舎で、何の取柄もない私が仕事に就けるイメージが全く沸かない。 実家に戻りつつ東京で就職活動? 電車で片道2時間もかかるのに、そんなのやっていたら貯金が秒で尽きてしまう。 何か、いいアイデアはないだろうか……? ぼんやりと空を見上げながら考えながら、あてもなく街中を歩く。 誠さんに相談してみようかな……って、駄目だった。 彼は今、音信不通の状態なのだ。 ああ、誠さんに会いたい……。 禁断症状なのか、道行く人が全て彼のように思えてくる。 タクシーに乗ろうとしているサラリーマン、手を繋いで歩く親子、スマホに夢中な女子高生。 肩を組みながら熱々の様子でいちゃついているカップル………って、あれ? 本格的に目がおかしくなったのかと思って、何度か瞬きをして目頭を抓んでみる。 全てが誠さんのように見える現象はなくなったけれど、カップルの男性はどうみても誠さんのままだ。 眼鏡をかけていなくて、髪型も少し違うけれど……。 「誠、さん……?」 私が駆け寄って近づき、そう名前を呼んでみると、彼は明らかに驚いたような表情をしたが、何も言ってはくれない。 すると、一緒にいた女性が彼に話しかける。 「亨、知り合い?」 「……いや、知らない人だよ」 そう言って、避けるように目を逸らして女性の腰に手を回して、足早に去ろうとする。
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