Act1.時給920円から始まる恋

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「ねえ、じゃあどこか寄っていこうよ」 「うーん……だったら、『みどりや』は?」 「いいね!久しぶりにカオスな特盛パフェ食べたいかも!」 「じゃあ、決まりね」 学校の帰りに、よく寄り道した『みどりや』は、店の外に2体の謎の仏像が置いてある、この街では知らない人がいない迷店だ。 奇抜なメニューが多くて子供ながらに興味を惹かれるものがあった。 特にマスターのその日の気分で内容が変わる『特盛パフェ』というのが看板商品で、普通では考えられないようなものが乗っていることがある。 私が経験した変わり種をいえば、讃岐うどんとか釜揚げしらすとか、一度、海老シュウマイが乗っていたこともあったっけ……。 でも、信じがたいことに、悲観するほど不味くないのだ。 店までは車で15分ほど、住宅街のはずれにある。 片側一車線の狭い県道を南下しながら、見飽きた風景をじっと眺めていると、世間話をするかのように和がふと話しかけてくる。 「くるみ、それにしても災難だったね。内定取り消しの上に、アパートの床が抜けるなんて」 「……ちなみに、それだけじゃないから」 「は!?まだ何かあるの?」 「店に着いたら、ゆっくり話すよ」 彼に騙されたことは、話していなかった。 和の反応が手に取るように予想できるから。 でも、折角だから話してみようと思う。 きっと、呆れられるに違いないけれど。
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