Act 0 〜Prologue〜

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冬の寒さも和らぎ、春の兆しを感じ始めている3月上旬の、よく晴れた日のこと。 週末の混雑している渋谷で電車を降りて、人の波に逆らわずに足を進める。 上京したばかりの頃は、電車の乗り継ぎひとつで苦労したけれど、今では難なくスマートに電子マネーを改札にタッチする。 都会での生活も4年、随分と板についてきた。 目的地の代官山までは一駅。 待ち合わせ場所は、私のお気に入りの、ベイクドチーズケーキが美味しいお洒落なカフェだ。 約束の13時までにはまだ少し時間があるので、化粧室に立ち寄り、鏡で入念なチェックを行う。 次回のデートのためにと買っておいた、ピスタチオ色を基調とした新作のワンピース。 春らしいヘアカラーとゆるふわパーマをあてて、ネイルサロンにも行った。 ここまで念入りに準備をしたのには、理由がある。 交際中の彼から、大切な話があるからと電話があったのは、一昨日の夜のことだった。 彼は3歳上のエリートサラリーマン。 私はこの春で大学を卒業して、都内の小さなデザイン事務所に就職予定。 社会人同士の順風満帆な交際の末には、もちろん「結婚」という二文字がちらつくわけで。 結婚なんてまだ早いかもしれないけれど、彼は結婚適齢期だ。 私との将来を考えていたとしても不思議な話ではないわけで……。
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