Act1.時給920円から始まる恋

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すると、篤は何故か後部席へと乗車する。 たまたまバイトの上り時間と重なったのか、一緒に家まで送ってもらおうという魂胆なのだろう。 「で、お前はこんな時期に、何しに戻ってきたわけ?」 「それは……」 本当のことを話したら、馬鹿にされるのが見えている。 でも、嘘を吐くのはどうも苦手で、上手く誤魔化せられる気がしない。 返答に困っていると、篤は何かを察したようで、ニヤリと含み笑いをした。 「さては、お前……男に振られたな?」 「……」 悔しいけれど、何も言い返すことができない。 これが、振られただけの失恋であれば、今でも私は感傷に浸っていたかもしれない。 けれども、流石にあんな仕打ちをされてしまえば、愛情は一瞬にして憎しみへと変わるというものだ。 「図星かよ。そのわりに、意外と落ち込んでいないのな」 「まあね。千年の恋も一時に冷めるってやつだよ」 「それをいうなら百年な」 篤の助言も耳をすり抜け、自分の浅はかさに溜息が出そうになる。 私はどうして、あんな男に2年間も費やしてしまったのか……。 2年前にタイムスリップして、彼の罠に嵌められようとしている自分を全力で救いたい。
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