Act 0 〜Prologue〜

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きっと彼――― 誠さんは真剣に考えてくれている。 彼はその名前に相応しいくらいに、とても真面目な男性だから。 2週間ぶりに会う彼、小岩井誠さんとは、付き合って2年近くになる。 大学3年生のとき、企業説明会に参加するために慣れないスーツ姿で会場へ向かっていた時のこと。 駅の階段で不運にもパンプスの踵が取れて、盛大にこけてしまったことがあった。 破れてしまった肌色のストッキング。 擦り剥いてしまった膝から血が滲み出てしまい、途方に暮れていた私に手を差し伸べてくれたのが、偶然に通りかかった彼だった。 ――ー ここで、少し待っていてくれるかな? 私をベンチに座らせ、そう告げると彼は階段を下りてどこかへ行ってしまい、こんな格好で説明会に行くわけにもいかない私は、訳も分からず彼の言葉に従った。 すると数分後、息を切らせながら彼が階段を駆け上がってくるのが見えた。 ――― これ、良かったら。外のコンビニと薬局で買ってきたから そう言って手渡してくれた袋の中に入っていたのは、傷薬と絆創膏、そして肌色のストッキング。 初対面にもかかわらず、そこまでしてくれた彼のことを、とても素敵な人だと思った。 散々な目に遭った私に、舞い降りてきたドラマのような出会い。 それがきっかけで彼とは親しくなり、程なくして自然と交際へ発展した。
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