Act 0 〜Prologue〜

4/15
前へ
/218ページ
次へ
「くるみちゃん、こっち!」 「ごめんなさい、少し遅れちゃったかな?」 「いや、俺が早く着いてしまっただけだよ」 今日も爽やかな笑顔を浮かべながら、私に優しい言葉を掛けてくれる誠さん。 背が高くてスタイルも良く、ファッションセンスも抜群で、頼りがいがあって性格も温厚。 黒縁の眼鏡も知的な雰囲気を漂わせて、更に輝いて見える。 「くるみちゃんの好きなアールグレイ頼んでおいたよ。あと、いつものチーズケーキも」 「ありがとうございます」 御礼を言って椅子に座り、テーブルの上に置いてあった水を一口飲む。 氷が少し溶けてグラスが濡れている。 彼は、かなり前からここで私を待っていたのかもしれない。 すぐに私のために注文してくれていた品がやってきて、目の前に並ぶ。 そして彼はいつもと同じアメリカンコーヒー。 角砂糖を二つ入れるのが彼の好きな飲み方だと知っているので、テーブルの端に置かれている角砂糖の入った小瓶を差し出した。 白と茶色の角砂糖を一つずつ選んでカップへ入れ、スプーンでそれをよく掻き回している彼に問いかけてみる。 「あの……話があるって、言っていたのは?」 「ああ、それなんだけれどね……」 そう言うと、彼の表情が急に曇った。 鈍感な私でも分かる。 今から彼が告げるのは、私が想像していたような甘い話ではないということを。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!

949人が本棚に入れています
本棚に追加