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 三日目の朝、私はその日の観光スケジュールを全てキャンセルすることにした。明日には帰路に就かねばならない、そう考えると最後にあと一目だけあの執事に会いたくなった。それもできるだけ最高の、彼に相応しい姿でお別れを言いに行きたかった。  ホテル周辺のお店をまわって相応しいドレスを探したが、それらはとても手が出せる物ではなかった。仕方なく自分で作ろうと決意して、手芸店なども見てまわった。真っ黒なことだけが取り柄の安いパーティドレスとレースの生地、それから造花など予算の許す限り購入し、ホテルに戻った。  ホテルの人にミシンを借りてひたすら縫った。レースを細く切断しドレスにフリルをつけていく。リボンや造花でデコレーションし、余ったレースはパニエにした。そしてヘッドドレスを仕上げたころ、窓から朝日が射しこんできた。  私は姿見の前に立った。急いで作ったのでフリルのギャザーが均等ではなくだらしがなかった。生地の安っぽさも誤魔化しきれない。それ以前に、徹夜で作業したために目の下に疲れが浮かんでいる。惨めな姿だった。  外見をそれっぽく取り繕っただけの、自分が忌避したコスプレみたいな感じだった。  こんな姿で彼に会うのは恥ずかしかったが、時間がないので荷物をまとめて外に出た。  案の定、彼は驚いた顔で私を迎えた。  私はここ数日の訪問のお詫びとお別れを告げると、それ以上の言葉はもう出てこなかった。  振り切るように踵を返すと、背後から彼の声がした。 「もし少しでもお時間が頂けるなら、お茶でも一杯いかがですか」  フライトは午後だ。私は勧められるままに屋敷に入った。
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