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 今年もコミケが開催された。  八月中旬、正午前。青空には雲一つなく、風もない。国際展示場に群がる人々はおしくらまんじゅうをするかのようにひしめき合って酸っぱい匂いをまき散らしながら足早にすれ違っていく。足音とざわめきの間からはセミの鳴き声も聞こえてくる。不快極まる環境だけれど、またこの季節がやって来たかと実感する。  私はコスプレイヤーとして参加していた。エントランスの付近にて黒いゴスロリドレスと持参したティーテーブルで優雅にお茶を飲んでいた。周りでは胸を寄せた女の子やお尻のはみ出た女の子たちがキメ顔でポーズを取っている。当然、私の周りにカメコたちが集まることはない。それでも私は屹然とした風を装い、愛想を振りまいたりはしなかった。  漫画雑誌の影響を受けて『お嬢様』に憧れたのは小学生の頃だった。以来私は「~ですわよ」とか「よろしくてよ」とか言うようになり、中学では髪を伸ばして縦ロールにし、高校では昼休みに屋上でティータイムをしたりするのを日課とした。大学になってようやく周りの目を気にするようになったけれど、憧れは強まる一方で、お金を貯めてはドレスづくりに精を出した。  ただその当時はコスプレは好きでなかった。外見を着飾るだけではお嬢様らしい所作や精神性は身につかないと決めつけていたのだ。  そして卒業旅行で私は『本物』の雰囲気を知るために単身イギリスへと飛んだ。  その時の出会いがコスプレを始めたきっかけとなった。
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