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「とりあえずはこれくらいかな。不明点はその都度確認してくれればいい」
「はい、ありがとうございます」
「君はきちんと理解していそうだけれど。──実質、ここから二度目の人生が始まると思ったほうがいい。『俗世』のナサニエル ブライトは死んだも同然だから。外での栄光は捨てた方が楽になる」
もちろんわかっていた。
だからこそ夢も希望もない、目を見開いても光の一筋も見いだせない現状を受け入れるべく、どうにか前を向こうとしているのだ。
突然に己を襲った不幸な出来事を嘆き哀しみ、打開策を模索して藻掻いた日々は無駄に終わった。
強制終了からの再起動、と例えるほどには割り切れていないものの、すべてを完全な過去として葬り去る覚悟を決めた。
現実にもリセットボタンがあったのだけが幸いだと、今は思うしかない。
たとえ闇の中であろうとも、ネイトは唯一持つ能力を発揮できることだけに縋る道を望んだ。
無理強いされたわけではなく、選択の結果として。
市井の一人の人間としてよりも、研究者として生きることを自ら選んだのだ。マックスの言葉通り、ネイト程度の瑕疵なら人生が終わるレベルでもなんでもない。
これまでの人生で、他のすべてを犠牲にする勢いで身につけた、──生まれて来た意味だった筈の能力を活かした技術を封印する勇気がなかった。
ただそれだけのことだ。
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