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「“レティ”。今日からお前の担当になるDr.ナサニエル ブライト。お世話してくれる人だ」
「ナサ、ニエル先生……?」
「ネイト先生。で、いいかな?」
突然振られ、ネイトは反射的に頷いた。
「構わないそうだよ。だからこれからはネイト先生の言うことをよく聞きなさい」
「うん!」
喋っている。
マックスと普通に会話が成り立っている。『実験動物』が!
目の前で繰り広げられている光景は、ネイトにとっては大袈裟ではなくカルチャーショックだった。
先に見せられた“R30”は、ベッドの上でうつろな赤茶色の瞳で膝を抱えていた。
中途半端に伸びた癖だらけの赤い髪で、マックスが新担当を紹介する声にも大した反応を示すこともなく。
一般人から見れば明らかに異常な状態なのかもしれない。しかし、ネイトにはそちらこそが平常なのだ。
「ネイト先生の髪、わたしともマックス先生とも全然違うわ。メイサ先生の茶色とも。空間ディスプレイでしか観たことなかったけど、こういうのが金茶色って言うの? 瞳は空の色ね。空はよく知ってる!」
矢継ぎ早に発せられる声に圧倒される。
緩いウェーヴの掛かった長い金髪。興味津々といった調子で明るく問い掛けて来る、煌めく菫色の瞳の持ち主。
膝下丈の白いTシャツのような飾り気のない着衣でも、いやだからこそ素の顔立ちが引き立つ美しい『人形』。
「先生は何を教えてくれるの?」
「え、え……。何、って」
訊かれた内容に理解が即座に追いつかず、ネイトは口籠ってしまった。
「メイサ先生は字とか絵とか、あと歌も教えてくれた!」
口話だけではなく文字まで!?
その上絵だの歌だの、もう意味不明だ。いったい前任者は何を考えていたのだろう。
形だけは人間の、オリジナルの部品でしかないたかが実験体に。
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