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「ネイト、とにかく早急にデータを揃えろ! あとは連絡が来たら引き渡すだけだ」
“レティ”を、データと共にオリジナルの治療に当たっている医療機関へと。移送される対象はもう「眠らせて」あると、ここに着いてすぐ知らされていた。
──“レティ”、俺は、……俺はこれから、お前を「解体」する準備をするんだ。どうして、俺は、どうして。
最初からわかっていたことだ。“レティ”を知る前、初めてこのラボに顔を出した日にマックスに忠告されていた。
彼は当然の如く承知していたのだ。「実験体」に思い入れると、苦痛が待っているだけだと。
それでも、これがネイトの「仕事」だった。
意識と身体を強引に切り離すように、無心でデータにアクセスする。考えたらその時点で止まってしまう。
このデータを呼び出して整えたら、即座に“レティ”の出荷票になるとわかっているからこそ。
所詮、駒なのだ。
“レティ”を想うなどと耳障りの良いお題目を唱えながらも、現実にはオーダーに従って動く己はただの矮小な卑怯者に過ぎない。
内心の葛藤を必死で抑えつけていたネイトは、マックスが誰かと通話し始めたのにも気づかなかった。
無意識に止まる手を、何故叱責されないのかも。
「もういい。助からなかったってさ」
背後から肩に手を置いたマックスの静かな声に、自分の周りだけ時間が止まった気がする。
「オリジナルが、……死んだ?」
「そう」
「じゃあ、──あの子は? どうなるんですか!?」
すべてが同じだとしても、見も知らないオリジナルの生死よりネイトにとって重要なのは“レティ”だった。
「さあな。こういうケースは私も未体験だし、聞いたこともない」
先輩がお手上げだとでも言いたげに、両掌を上に向けた芝居がかったポーズを取る。それさえもまるで計算された演技のようだった。
すべてが舞台の上で行われているかのようで、どこか現実味がない。紛れもなく今現在、我が身に起こっている事象なのに。
棒立ちのまま何もできずにいるネイトを放置して、マックスが「これから先」に向けて慌ただしく動き出した。
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