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「“レティ”、俺から最後に伝えたいことがある。しっかり聞いてくれ」 「先生。わたし、──ここにいられないって本当?」  否定して欲しがっているのが手に取るようにわかる“レティ”の質問にも、首を横に振ってはやれない。  ネイト如きには関与できない部分で既に決定したことなのだ。 「……もう会うことはないけど、万が一俺やここの名前を聞くような機会があっても絶対に知らない振りをしろ。名家のご令嬢と、この胡散臭い研究所(ラボ)が繋がってるなんてあってはならないんだ」  こんな根本的なことは、間違いなく最初に事情説明がなされた際に念押しされているだろう。  ネイトもその程度のことに気付かなかったわけがない。  ──ただの、口実だ。最後に“レティ”と共有する時間を捻出するための。 「ネイト先生──」  “レティ”が何か言い掛けるのに、言葉を被せて止める。 「おま、……貴女は今から『レディ ヴァイオレット カーライル』。説明されたでしょう? だからラボのことも僕のことも全部忘れて、どうかお幸せに。貴女のこれからが順調なものであるよう、陰ながら祈っています」  言わせたくないよりも聞きたくなかった。これ以上心残りを増やしたくない、ネイトの勝手な感情の発露だ。  大きく見開かれた菫色の宝石(アイオライト)のような目が、みるみる潤んで行く。  “レティ”の立場からすれば、信じていた者にいきなり突き放されたも同然か。  まったく知らない環境で、知らない人間になれと言われて。
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