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【Nate~ネイト~】[1]
「やあ、Dr.ナサニエル ブライト。ようこそ、この研究所へ」
新生活に対する期待や高揚など欠片もなく、敷地内の宿舎から暗い気分で訪れた勤務先。
初出勤としての形式を整えたに過ぎなかったが、自室に用意されていたスーツを身に着けて来た。こんなものが必要な場面などあるとは思えないのに。
わざわざ「外」から持ち込むほどの、思い入れのある私物などありはしない。「生活に関してはすべて手配する」と聞かされてはいたが、ここまでだとは予想もしなかった。
明るい声と笑顔で迎えてくれたのは、白髪交じりの黒髪の白衣を着た男だ。ただし、細いフレームの眼鏡の奥の灰色の目はまったく笑っていない。
「ネイトで結構です。え、っと」
「失礼、私はマクシミリアン グリーンヒル。ここでは八年目だから、君の『先輩』になる。ではネイト、どうぞ私のこともマックスと」
名乗った彼は四十代も後半だろうか。二十八歳のネイトより二十近くは年長に思われた。
痩せているので長身に見えるが、実際に対面で立つと明らかに目線が低い。
「で? 君は何をやったの?」
「……!」
軽く問われて咄嗟に声が出ないネイトに、マックスは苦笑する。
「ああ、すまない。詮索する気はないし、無理に打ち明ける必要なんてないんだ。──所詮ここに来るのは皆、何かやらかしたけど優秀だから飼い殺しにされている同じ穴の狢だよ。私も含めてね」
どんな罪を犯しても、「優れた頭脳の持ち主」が真の意味で一般人同様に断罪されることはない。
とはいえ、完全に無罪放免というわけでもなかった。彼の言う通りに。
現実に、このラボの研究員はほぼ例外なく「法的な重罪を犯した人間」だ。
具体的には殺人、──それも「猟奇的」がつくようなものも珍しくはない、のだろう。
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