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「最も重要なのは、複製は『人間』じゃないってことだな」
「それは僕もわかっています」
基礎の基礎だ。何を今更、とネイトは頷く。
「そうだね。でも教えれば、まるで人間みたいに自分の意思でも動くんだよ。組成は人間と変わらないからな。ペットもそうだろう? 動物だと理解していても、懐けば可愛いし家族同然と見做す層もいる。同様に、勘違いしても無理はないんだ。──若い人は特に引き摺られやすいからくれぐれも注意を」
マックスはひとり淡々と続けた。
「ここのクローンはいずれオリジナルのために『解体』される存在として割り切るのがもっとも平和だ。最初からそのために作られた複製だから」
息を呑むネイトにも、彼は表情一つ動かさない。
マックスは常識を述べたに過ぎなかった。
衝撃を受けるほうが未熟なのだ、と自戒する。
「人工的に培養はできても、『促成栽培』は今の技術ではまだ無理だからな。人間を、……子どもを作るってことは育てる必要があるんだ」
それは当然理解していた。経験はないけれども。
「新たな『依頼』が入るまでは、今いるクローンの管理が重要度としてはメインになる。新規の依頼は滅多にないよ。莫大な費用と労力が掛かるからね。ここで最も新しいのは生産後七年だったかな」
我が子のスペア作成を考え、現実に実行できる人間はそう多くはない筈だ。
そもそも純粋な「クローン作成とその管理」に掛かる費用なら、そこまで桁外れだとは思えない。
何よりも「極秘遂行」が重視されるからこそだろう。
本音では罪悪感など欠片も持っていなくとも、「社会的に」後ろ暗いことだ、という認識は見せつけなければならない。形だけでも。
「君の担当二体のデータも入っているから目を通して。パスもとりあえず私にしていたのを解除したから、自分の網膜で登録するように」
卓上の専用端末を操作して彼が呼び出した、空間に映像として浮かぶデータを指しての言葉に頷く。
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