【Nate~ネイト~】[1]

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「最も重要なのは、複製(クローン)は『人間』じゃないってことだな」 「それは僕もわかっています」  基礎の基礎だ。何を今更、とネイトは頷く。 「そうだね。でも教えれば、まるで自分の意思でも動くんだよ。組成は人間と変わらないからな。ペットもそうだろう? 動物だと理解していても、懐けば可愛いし家族同然と見做す層もいる。同様に、勘違いしても無理はないんだ。──若い人は特に引き摺られやすいからくれぐれも注意を」  マックスはひとり淡々と続けた。 「ここのクローンはいずれオリジナルのために『解体』される存在として割り切るのがもっとも平和だ。最初からそのために作られた複製だから」  息を呑むネイトにも、彼は表情一つ動かさない。  マックスは常識を述べたに過ぎなかった。  衝撃を受けるほうが未熟なのだ、と自戒する。 「人工的に培養はできても、『促成栽培』は今の技術ではまだ無理だからな。人間を、……子どもを作るってことは育てる必要があるんだ」  それは当然理解していた。経験はないけれども。 「新たな『依頼』が入るまでは、今いるクローンの管理が重要度としてはメインになる。新規の依頼は滅多にないよ。莫大な費用と労力が掛かるからね。ここで最も新しいのは生産後七年だったかな」  我が子のスペア作成を考え、現実に実行できる人間はそう多くはない筈だ。  そもそも純粋な「クローン作成とその管理」に掛かる費用なら、そこまで桁外れだとは思えない。  何よりも「極秘遂行」が重視されるからこそだろう。  本音では罪悪感など欠片も持っていなくとも、「社会的に」後ろ暗いことだ、という認識は見せつけなければならない。形だけでも。 「君の担当二体のデータも入っているから目を通して。パスもとりあえず私にしていたのを解除したから、自分の網膜で登録するように」  卓上の専用端末を操作して彼が呼び出した、空間に映像として浮かぶデータを指しての言葉に頷く。
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