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しかし、文字列に走らせた視線が違和感で止まってしまった。
《ID:F-176-2》
識別番号はいい。問題は次の……。
《NAME:Letty》
「あの、ここでは『研究対象』に名前を付けるんですか?」
「君は大学で、例えば解剖目的で飼育していた実験動物に愛称なりを付けていたのかい?」
あまりの驚きに思わず漏れた疑問に、マックスが逆に訊き返して来た。
「まさか!」
そんな事は考えたこともない。
「そういうことだよ。まずあり得ない。識別ナンバーそのままでは呼びにくいから実際に使用する呼称は別に決めるけれど。無機質なものをね」
やはりそうなのだ。それはそう、だろう。
「そのF-176-2の場合、本来なら“V17”になる。……君の前任者が『特別』だったんだ」
前任者。
彼も先ほど「欠員ができた」と言っていた。
だから、通例ではここに来ることはないネイトが送られて来たのだろうと。
「……そういえば、僕の前任の方はどうして、その」
このラボは比喩ではなく最後の地だ。先はない。
研究者としてのみならず、単なる一個人としても一生監視下に置かれると決まっていた。『機密』を知る人間を野放しにはできないからだ。
つまり、生きている間に自由は与えられない、筈。
ここに来ることになる前も、半ば配属が決定してからも、詳細を知らせる前に、としつこいくらいに念を押された。
それはネイトには『選択権』があるという証左でもある。
「担当していたクローンが『出荷』されて、彼女は病んだ。今は、……実質檻の中、だな」
施錠された病室、か?
もし何もわからない状態だとしたら、その方が本人にとってはいいのかもしれないと感じる。
これも単に他人事だからだろうか。
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