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「その『出荷』されたクローンは、用済みで処分されたんですか?」
「いや、戻って来ている。今は私が見ているよ。当時、必要なのは一部だけだったんだ。まだ使えるからね、他の臓器や何かは」
ネイトの質問に答えた彼は、前任者の担当だった残り二体のうち一体は他の研究員に引き継がれた、と付け加える。
「メイサは愛情があまりにも強かった。執着と言い換えてもいい。──生まれたときから『育てた』クローンに、思い入れ過ぎてしまったんだろうな」
そもそもここに来たのも、束縛に疲れて別れを切り出した恋人を殺害したかららしい、とついでのように教えてくれる。
「自宅で恋人の遺体のすぐ傍らで、『切り離した頭部』を抱えて蹲っていたところを発見されたそうだよ。姿を見せない彼女を心配して、家を訪ねた研究室の同僚に。……どのくらいそうしていたのかね」
年齢はさほど変わらないが、彼女のラボでのキャリアはマックスよりずっと長かったのだという。
それだけ若い頃に事件を起こしたということか。突出して優秀だからこそ、多少視野も狭かったのかもしれない。
「担当クローンの呼び名を、メイサはオリジナルの名前のアレンジで付けていたようだ。“レティ”と“エリー”、私が受け持っている欠損した個体は“リフ”」
改めてデータを確認すると、受け持ちのもう一体は《ID:M-307-4》《NAME:R30》になっていた。
「“R30”はオリジナルの名の頭文字がRなんだ」
呼称の付与にも、この研究所特有の法則があるようだと理解する。
“レティ”ことF-176-2は生産後十三年、“R30”ことM-307-4は十一年。
性別は識別番号でわかる。前者はF、つまりFemaleで女。後者はM、Maleで男だ。
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