第二章ープロローグ【騎士と言葉】

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───昔この意思ある世界カルディアには、2人の兄弟神がいた。 1人は弟神ヘリオス────。 空のように淡い青色の髪に白金の瞳で、真昼のように賑やかな神だった。 もう1人は兄神セレネ────。 深夜のような闇色の髪に同じ色の瞳で、真夜中のような静かな神だった。 そして、ある出来事が原因でこの世界は一度消滅の危機に陥った。その時この世界、ひいてはかつての人間たちを自らの存在を犠牲にすることで守ったのが兄神のセレネ。 故に、人々は世界としてカルディアを崇め、残ったただ1人の神としてヘリオスを崇める。そして、この世界に生きる物全てが存在できている証……セレネを英雄神として崇めた。 結果として、セレネの容姿である黒が異常な程に崇拝されるようになった。 ────セレネは慎ましかった。 弟神ヘリオスや世界カルディアは光で自分はその影なのだと言う。 その考えが人々にも浸透し、黒は慎ましく美しい色、白は神や世界の色として広まった。 生まれ持つ色が黒に近ければ近い程セレネのように周囲を支え癒す存在として称えられ、対照的にセレネに支えられた“光”である白を纏って生まれた者はセレネが愛した神や世界に成り代わらんとする不届きな“偽物”として蔑まれた。 しかしセレネの消滅から何百年と歴史を重ねてきたこの世界だが、黒髪黒目は件の兄神セレネただ1人であった。 故に。 ───人間で髪も瞳も黒いなど、とても現実的ではなかった。 アシェルは父である国王や兄の王太子、その他自国の重責等同様、自分を含めた誰もが信じてなどいないと思っていた。 そしてつい数日前、更に例の騎士団から追加報告が入った。 キエトウルフに首を直接噛まれたらしい少年は声が出せない状態異常が続いているとの事。他の怪我も安定しておらず警戒し怯えた様子を見せた彼の精神を考え、暫くは接触を最小限にして様子を見ることにするらしい。 落ち着き次第、城の治癒士に治療を頼みたいのだとか。
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