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────つまり、現状本当かどうか分からないのだ。
まだ裏付けも取れていない噂程度の情報に比較的仲のいい自分の侍従達が興味を示し「例の方はいつ頃いらっしゃるのでしょうか…」と既に城に招くものだと思い込み、ソワソワとしているその様があまりに滑稽でアシェルは笑ってしまったのだ。
「本気であんな嘘みたいな報告真に受けてんの?濃い青とか、あっても隣国の皇太子みたいな焦げ茶でしょー?ちょっと顔が可愛かったから盛ってるんだよ」
下働きの人間たちによく詳細を聞かれる、と浮かれた顔をして話してしまった侍従は少し焦りだしていた。そんな困惑顔の侍従にアシェルは嘲笑うような呆れた顔をして口を開いた。
「ねぇ、お前まさか絶世の美少年だーってのも信じてないよね?」
アシェルの海色の瞳が静かに眇られ、侍従の背には嫌な汗が流れた。アシェルは自分よりも背の高い侍従の頬をサラりと撫でると、その手をスルッと落とし侍従のスカーフを掴みふわりと可愛らしい表情を作って侍従に再度問う。
「────僕以上に綺麗な人間なんか存在しないんだから、当然だよね?」
「も、もちろんです。っ殿下は大変お美しいです」
頬を染めて答えた侍従の言葉に当たり前とばかりに顎を上げ「そうでしょ?」と、勝ち誇った笑みを浮かべスカーフからパッと手を離したアシェルは、片側が編み込まれた極彩色に輝く金色の髪をサラリと優雅に揺らしてテーブルの方向へ踵を返した。
だが。
「っ……し、しかしながら────」
そんな意を決した侍従の言葉にアシェルの機嫌は急降下した。
アシェルはくるりと振り返ると再び侍従へスタスタと詰め寄った。
「────は……何?まさか侍従の分際で僕に口答えすんの」
眦を上げ、さも不思議だという表情で侍従の足を払って転倒させ、後頭部をヒールのブーツで踏みつける。
「ゔ────」
「……馬鹿にしてんの?お前たち下々の奴らはこの僕よりも、美しい人間がいるって……信じてるわけだ?」
踏みつけられ潰れるような声を上げた侍従に眉を顰めたアシェルはグリ──と、更にヒールを侍従の後頭部に食い込ませて問う。
「ゔッ……も、申し訳ありませ────」
「はぁ……何年僕の侍従やってんの?謝罪は要らないんだけど」
侍従の謝罪をため息で遮ったアシェルは踏みつけにした彼に先を促す。…まだ彼の気は済まないらしい。
「……殿下の、っ意思こそが…我々、ッ下僕の意思…です」
「はいはーい、よく出来ましたぁ」
アシェルはようやく侍従から足を退けると「はぁー無駄な労力使っちゃった」と呟くと侍従にいつまで寝ている?とでも言いたげな胡乱気な視線を寄越す。
侍従はその視線にサッと立ち上がり素早く身なりを整え、いつもの顔に戻る。それを認めてからアシェルが呟く。
「見つかった当初は瀕死だったみたいだし、そこは同情するけどー……にしても、黒ねぇ」
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