第二章ープロローグ【騎士と言葉】

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報告書には闇に溶けるような純粋な黒だとか書かれていたか、とアシェルは思い出す。アシェルは綺麗なものが好き、それは例外なく人間でもだ。もちろん黒色も。 「ちょーっと……見てみたいよね」 少しだけ興味の湧いたアシェルはそう呟く。 アシェルは期待した目でそっと見つめてくる侍従に呆れた視線を向ける他ない。 この侍従は王が美しいアシェルを溺愛していることを知っていた。アシェルが望めば国王は相当の無理難題ではない限り基本的に叶える。それをわかっている為、アシェルが望んでさえしてくれたなら『自分も黒を纏うという奇跡のような少年をひと目でも見ることが出来るかもしれない』と、期待したのだ。 アシェルはそんな侍従の視線に気付きながらも溜め息をつき、困ったように極彩色に輝く髪を掻き毟る。 「まぁ、口に出さなかったとこは進歩かな……どんな“紛い物”が来るか確かめるって程度だからね?わかってる?」 侍従はコクコクと頷きキラキラとした目で見てくる。 この侍従だけでなく他の下働き達も気になっているらしい様子を把握し、後々従順な手駒を増やす為にも今回のことで恩を売り株を上げておくのもいいかもしれないと考えた。 アシェルは『たまには飴をやらないとね』などと心の中で呟くと確認が取れ次第、父王に頼んで城に招いてもらうことに決めた。 先程から話している侍従が他の侍従仲間とこっそり視線を交わらせて嬉しそうにしている。アシェルは侍従達のこういう馬鹿で素直なところが結構気に入っているのだと心の中で嗤う。 とはいえ、認めたくない絶世の美少年という話…こうも露骨に喜ばれると面白くない。 「はぁ……まぁもう暫くしたら治癒士が事実確認含めて治療に行くって言ってたし。……そのうちホントかどうか、報告入るでしょ。話はそれからだから」 侍従に追加情報を教えてやったアシェルはスっと興味を失ったようにいつもの席に座ると、テーブルの上のスイーツに手を伸ばした。 「────んんっ、ブルータルト美味しぃぃ」 アシェルのお皿の上に乗った黒に近い青紫のベリータルトは、王城の大きな窓から差し込む光で宝石のようにキラキラと反射していた。
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