お別れと街

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日付けが変わる前────。 いつもと同様にロイドさんが傷の具合を見に来てくれた。身体中に着いていた小さな傷から大きな傷まで彼には大変お世話になった。 まだ腕は治っていないものの、このくらいどうにか出来ると思う。今はそこまで痛くないし、痛み止めを塗ってむやみに触らないでそっとしておけばそのうち治るだろう。 暫くしてロイドさんが扉をパタリと閉めた。足音をよく聞き部屋から遠ざかったのを確認して、僕はベッドから降りた。 彼が帰ってからここを出ることにしていた為、僕は予定通り椅子をズルズルと引きずり窓の近くへ持っていった。 そしてチェストから畳んだ制服を出しベッド横のキャビネットの上に乗せ、その上にここで好きになった藍色の小さな花を綺麗にのせておいた。 なんかそれっぽくしないとプレゼントだって分かってもらえなさそうかなって思った為だ。 …僕置き手紙とか書けないし。 引きずってきた椅子へ、そして更に窓の淵へ登り窓ふちを越え───いや、不格好に落ちて。 そうしてずっとお世話になったあの部屋を出た。 …部屋はできる限り綺麗にしてきた。 お風呂やトイレ、ベッド。自分なりにできるだけ整えてから出てきたつもりだ。 僕がお世話になった施設…?の建物から静かに離れ、しばらく進むと公立の学校でよく見る運動場のような広場があった。 ここは森の中ぽっかりと丸く空いて出来ているような場所らしく、月明かりを受けてかなり明るい。 そこを通り過ぎてもうすぐ施設の敷地を出れそうという時──── 木陰に乱雑に置かれたままのローブが目に入った。 「…………」 少し考え、外の世界に出るならこういうものがあったほうがいいのだろうか?、と考える。 街に行くにしても、森を進むにしても夜や朝はやはり肌寒い。 …………んー、と…… 僕はごめんなさい、と申し訳程度に心の中で思いつつ最後に餞別として勝手に持っていかせてもらうことにした。ローブに手を伸ばし、またいつか新しいものをお返しに来ます、なんて言い訳をしながら。 僕は絶賛今自分が借りているシャツとカーディガンそれから薄手のズボンを見て──── ……これも餞別に貰ってしまってごめんなさい。 などと図々しいことを考えていると途端ハッとして、できる限り早くここを離れなければ、とローブを素早く羽織ってフードを被った。 僕は異世界とはいえ流石にまだ子供扱いだろう。もし彼らとまた鉢合わせれば一度保護した責任からまた保護するとか、そんな雰囲気になってしまいそう…… ここ数ヶ月でよく分かった、彼らは優しい。もしまた助けて貰えるって分かったら、ここの言葉も文字も常識も知らない僕は…うっかり甘えてしまいそうだ。 それに──── 確かにここでの生活は楽しかった、けどまた……取り返しがつかなくなるほど親しくなった時、突然別れが来たらと思うと少し怖い。 拝借したローブは既に風よけと保温になってくれているようでもう既になんとなく温かい気がする。 明かりの灯らない施設の方をちらりと見た。 よし。と心に区切りをつけると、施設にお世話になりました、と一礼してからその場を去った。
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