お別れと街

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ガヤガヤとした騒音────。 人の声や何がなんの音か分からないほどに重なる物音がうるさくて少し耳が痛かったが、暫くしたらそれがむしろ夏祭りの時のような雰囲気に感じられて、体の奥が少し高揚するのを感じた。 「*******~」 「******!*****?」 「******~******~」 売り子の呼び込みの声がそこかしこで響く。騒音に負けないように呼び込むのでガヤガヤとした音よりさらに大きい。 それにしても…… ────この街すごく綺麗だなぁ…… 僕は心の中で感嘆する。 鮮やかな煉瓦色を基調とした建ち並ぶ建物、不思議な飲食物、アクセサリー、様々なものを売る出店。 それらのおかげで元々明るい印象を与える街並みが更に賑やかになっていた。 異世界と言うより少し前の外国のような雰囲気で、僕の常識的にもそれほど違和感は無かった。とはいえ、本当にそのままという訳では無く、以前の世界では時代云々関係なく明らかに存在しなかっただろう物をいくつも見かけた。 ……だというのに、この街の雰囲気はどことなく既視感のあるもので少し不思議だった。けど、ぼんやりと思い出してきて、きっとそうだと納得してスッキリする。 ──多分、友達とやったRPGゲームで見たんだと思う。服装から見て取れる生活水準、街人の髪色や瞳の色などがゲームでたくさん配置されていたNPCによく似ている。 でもこれは現実の世界でゲームの中じゃない。プログラムされた言葉しか喋らないNPCではなく意思があり、顔だって三者三様で前の世界で一般的に不細工と罵られていた人達だって明るく客寄せをしている。 “見た目なんか些細な事”──── こちらの世界にいる個性的な顔立ちの人達は、まるで自らが受け入れられることが当たり前だというように振る舞い、周囲もそれを受け入れている。 なんて素敵なんだろう? 正直……これを目にして僕は、少しだけこの世界に来れて良かったかもしれないと思えた。
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