差別と虐げ

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以前の世界なら少し顔立ちが周囲と違うだけで肌の色が違うだけで好奇の目で見られることも多く、僕だって例外ではなくそれが普通になってしまっていた。 でも、ここはどうだろう? この街を歩き出して初めて、呼び込みの青年達が器量など関係無く客に受け入れられている様を見た時僕は瞠目した。少し街の大通りを歩いて雰囲気を見ただけ、だと言うのにこの清々しいほど容姿への頓着の薄さ。 大事なのは中身────。 そう強く主張されているように見える。 偽善?なんとでも言って欲しい。 昨夜は施設周辺の森を抜け、路地の物陰でうずくまって寝た。森は思ったよりも浅く、この施設も街の中にあったようで危険は何も無かった。 ……無駄にビクビクしながら泥棒のようにコソコソと移動していたのが恥ずかしい程に何も起きなかった。 施設から街までも遠くなかった事が幸いだったのかもしれない。 基本的に僕は運動神経自体は悪くないものの体力がそれに追い付か無い。そんな僕でも全く問題無い距離だった事にほっとせずに居られなかった。 ───街の騒音を聴きながらゆるゆると道を進む。 串焼き屋の前を通れば喉がなり、花屋の前を通れば甘い香りで肺がいっぱいになった。 屋台の前でつい立ち止まり、苺に似た食べ物を見た。これはこっちの世界でなんというんだろう…とくだらないことを考えていたら店番をしていたおばさんが機嫌の悪そうな顔で何かを訴えてきた。 僕が見ていた苺を指さしてるからそれを買うのか、と聞かれているのだろうか?でも僕は買うつもりなどないし、そもそも買うための通貨を持っていない。なんなら見たことすらない。 僕は慌ててローブから手を出し顔の前で違います、と振って意思表示した。 でも店番のおばさんが僕を追い払うことはなかった。暫しフリーズし、ハッと我に返ったおばさんは、何を思ったのか小さめの紙袋に苺を詰め初め、やがて袋いっぱいになると封を閉じた。 彼女の唐突な行動にキョトンとして、行き場を失った僕の腕をおばさんが掴むとその紙袋を僕の手に持たせた。 「……*******」 意味がわからず顔を伺うと先程の不機嫌さはどこかへ消え去り、遠慮がちに笑いながら口元に人差し指を当ててシーっというジェスチャー付きでなにか言っている。 僕が紙袋を持つとじゃあね、という感じで手を振られた。 お金を払ってない……というか持っていない、と思いおばさんに袋を返そうとして近づくが肩を掴まれ体の向きをくるりと変えられると背中をぽんぽん、と押される。 よく分からず振り返ると、鼻と口が横に大きく広がったおばさんがにこりと優しく笑っていた。背を押されるままに少し進み、しっかりと振り返ってからぺこりと頭を下げる。 ……また手を振られた。 この苺は貰っていいのだろうか……?
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