カルクの当たり前と奇跡

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────そう、当たり前だった。 ……今日はたまたま大通りに近い裏道を歩いていた。路地裏にあるおじさんの店に行く為に、兄が細い道を歩き僕はその後ろを着いて歩いていただけだった。 でも、急に横から腕を引っ張られてバランスを崩した。 視界が回り体に鈍い痛みが走って驚いたが、衝撃に瞑っていた目を開けると大通りに引っ張りだされていた。自分を引っ張った人物を確認しようと目を向けると…… ───そこには時折僕らを使っては胸糞悪く遊び散らかす子供が何人かいた。 兄は僕が居なくなったことに気が付いていないらしく、戻ってくる気配はない。 あぁ……面倒なことになったらしい。 *** 「チッ…また街におりてきたのか…」 僕を見た大人が顔を歪めた。 「僕たちを見て追いかけてきたんだ…ッ!」 大人達に訴えて泣き真似をする小綺麗な街の子供。 着いて来いって言われたから着いてきたのになんだそれ、と思いつつまた日々の憂さ晴らしがしたいだけかと内心溜め息を着いて受け入れた。 遊び呆けているこの子供等にストレス発散が必要なのか?なんていう疑問はどこかへ家出したっきり帰ってきていない。 大人に言いつけた子供がニヤっと顔を隠した腕の中で口元を歪めた。そして大人たちも「大丈夫か」と口では心配しながらも躊躇いがちに口元に笑みを浮かべた。いいストレス解消道具が転がり込んできたと言わんばかりの顔だ。 すぐに人は集まり、最初に居た人間達以外は本当に僕が彼らを普段の報復かなにかの為に追いかけたのだと思い込んでいるように見えた。 でもそんなのはここで何を言っても変わることは無い。だから僕もわざわざ言わない。 子供だけでなく大人まで石を投げてくる中、頭は酷く冷静だった。 これは普通の事で当たり前。生まれてこの方ずっとこれで、それ以外の扱いは寧ろ戸惑うだけだった。 当然のように自分を蔑む周りの人間たち。そして僕もまた、彼らの嫌悪感には同感で、与えられる暴力と罵詈雑言にただただ耐えてきた。 「~~~~~~~~ッ!!」 ────それが、今日は違った。 不意にローブを被った自分と同じくらいの少年に抱きしめられたのだ。 戸惑う僕を他所に少年は必死に何かを訴えるものの、声が出ていなかった。でも……確かに何かを訴えるこの温もりはどこか心を落ち着かせる何かがあり、今はそれどころじゃないのにそれが不思議でずっと縋っていたくなった。
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