カルクの当たり前と奇跡

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投げつけられていた石はいつの間にか止まっていた────。 が、罵声はそのまま……もちろん彼に対してでは無く僕に対してだ。 彼が僕を抱き締める為にローブから出して覗かせた腕は白く、か細くて容易に手折れてしまいそうなほど華奢だった。 「君!ソイツは危ないからこっちに来るんだ!」 「あんな華奢な身体で近づいたら折られちまう!誰か助けてやれよ!!」 近付いただけで折る訳ないだろ、と心の中で思うも口には出さない。罵倒が勢いを増すだけだ。 ローブを頭から被っていても尚その華奢さが隠しきれていない少年に、周囲の人間達は罵倒を続けつつ僕から離れ自分たちの元へ来るように訴えている。 「────、っ~~~~!!」 しかしそれに耳を貸さない少年は苦しそうに音もなく震え僕をギュッと抱きしめて来る。何かを訴えているが声が出ておらず何も伝わらない。だと言うのに周りの大人が困惑する中、少年はなおも訴え続けた。 華奢で美しい体型、手だって白く豊かな街の住民でもこんなに綺麗じゃない。どこかの貴族や商家の息子だと言われた方が納得するような少年が、今────自分に抱きついている。 ……はっきり言って意味がわからない、誰か説明して欲しい。 普通こういった子は高飛車で傲慢に育つ事が殆どだ。 周囲の人間から蝶よ花よと育てられ、世間に出てもその容姿で傲慢な事が罷り通る為、歳を重ねる毎に悪化していくのが常だ。 思い通りにならなければ容姿を利用し都合のいいよう捻じ曲げ、気に入らない人間が居ればすぐに取り巻きの屈強な男に捻じ伏せさせる。それがだ。 なのに……彼は美麗な男達の顔に興味すら湧かないのか、ただひたすらに僕を守ろうと小さな身体でぎゅうぎゅうと必死に抱きしめてくる。 少年の音のない叫びが次第に収まり、腕の中の彼がしゃくり上げている事に気が付いた。 少年はやがて腕を弛め僕から少し距離をとった。彼は僕の顔──と言っても反面を着けていて鼻から下しか見えないだろうけど……僕の顔を伺うように少し覗き込むと、辛うじて見える自らの小さな口をギュッと噛み締めた。 その頬からはポロポロと涙のような水が伝っているのが分かる。 何故か僕を見て泣き始めてしまった彼が、僕を助けてくれようとした風に見える彼が気になって、フードを覗き込んだ。 …そして────僕は息を呑んだ。
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