カルクの当たり前と奇跡

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これは夢なんじゃないのか────。 そんな、後で自分が傷つかないが為の現実逃避(自己暗示)をしてしまう。 だって人は僕らのような人間をまるで犯罪者や化け物のように言う。過去の咎人の影。まるで僕達自身が罪を犯したかのような扱いに、相変わらずの諦観が襲ってやまない。 癒しの神であったセレネは見た目関係なく人間を愛し、悪事を働いても本心から反省出来たのなら他と同じように許し、癒したのだという。 じゃあ…このセレネのような幻覚の少年は僕の存在も、許してくれるだろうか。罪を犯した人間でさえ慈しんだと聞くセレネ()なら、悪事なんてしていない僕の事も受け入れてくれるのでは? 夢なら────抱き締め返しても、許される? そんな浅はかなことを考えた瞬間、僕は近づいてくる男によって弾かれたように現実に引き戻された。 「おいお前! その子を離せ、穢れた分際で……善良な子供を追いかけ回しただけでは飽き足らず、石避けにこんな華奢な子を使うとは!! さすがは第二の騎士見習いだな。なんて心まで汚い奴……」 善良な子供とはそこでほくそ笑んでいる奴らのことか? この方を石避けに? いつもなら聞き流すのに今日は腹が怒りで捻れるように暑くなった。 この方を石避けになんて使っていないし、当の石を投げてきたのはそっちだ。きっとこの方にも幾つか石は当たってしまっただろう……こんなに脆そうな彼は、当たっても何も反応を示さなかった。 何かを痛々しく訴える彼を思い出してギリ───と奥歯が音を立てた。それと同時に、小綺麗な男が彼に手を伸ばす。 ───……あぁ、行ってしまう。 連れていかないで、僕から彼を取らないで。 なんて、見当違いの感情が目の前をぐるぐる回る。 抱きついていた少年が顔のいい男に持ち上げられ、僕から離された。夢の時間はもう終わりらしい。 ───と、そう思った。 少年は抱き上げられ僕から離された瞬間、物凄い剣幕で暴れあの綺麗な男を拒絶した。 か細く脆い体で必死に暴れ出した少年に驚いた男は、寧ろ彼自身が傷つくと思ったのか強く掴むことができていなかったらしく少年は簡単に地面に落ちた。 彼が地面に落ちた拍子に、頭から被っていたローブはずれ落ちた。 そして重力に従いストンと落ちるような艶のある髪と、泣き腫らし赤く染まった扇情的な目元が露になった。 ───真っ黒な髪と瞳で男を睨みつける少年。 瞳の色と髪の色は……“暗色”などではなく紛れもない黒だった────
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