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平凡な俺(ブレイク)side────
「……──────」
「御使い様っ!どうして居なくなったりしたんですか?!」
彼は居心地悪そうに眉を下げてこちらを見上げるだけだ。
俺は彼と視線を合わせるように膝立ちになり諭すように話した。城壁の中とはいえ、昼間でも街は危ないのだ。大通りから1本入れば、ゴロツキや生死のかかった生活で血走った目をした浮浪者がウロウロとしている。
思い付く限りの危険なことをどれだけ捲し立てても、当の彼はキョトンといつものように眉を下げるだけ。今日は辛うじて俺の眼をずっと見てくれていて、話を真剣に聞いてくれているのが確認できるだけまだマシだ。
ふいに衣擦れの音が聞こえてそちらを向くと、窓のすぐ下に置かれた椅子に腰かけていたカルクが街頭を脱いで立ち上がっていた。
「ブレイクさん、そんなに怒らなくても……というか、この方は…?」
今更ながらカルクに説明していなかったことに気が付き、副団長を見る。副団長と目が合うと彼が無言で頷いた為、まずはこれまでのことを話した。
***
彼───御使い様は魔物に襲われていた所を第二騎士団に助けられ、ここに運ばれてきた。
当初の彼はそれは酷い怪我だった。しかもそれとは別に手首や首に締め付けられ、擦り切れたような痕があった。
着ていた服は穴が空いており泥だらけだったものの、洗濯をしたら驚く程に上質なもので、きっとどこか清い血筋の方なのだろう事は容姿を鑑みても明白だった。
拘束の痕は血筋、若しくはこの容姿が原因でなにか面倒事に巻き込まれたのではないかとみられている。
……まぁ、第二騎士団に所属する男たちは特にだが、この街の第一騎士団に所属する俺達だって平民の出が多いため、お貴族様達の思考や事情はよく分からない。
推測しか出来ないが……訳あり、とりあえずそんなだろうと思っていた。
拘束痕は重症だった首と腕の傷と並行し、ロイドが優先して治療していた為彼が眠り続けている間に完治させていた。
ロイドに優先した理由を聞けば、彼はまだ幼く魔物に襲われ深手を負ったショックから、目覚めた時に意識を失う前後の記憶が曖昧になっている可能性があるのだそう。
だから痕を見てわざわざ苦い記憶を思い出さなくていいように先に消しておきたかったんだとか。確かに俺も思い出さなくていいことは思い出さなくていいと思う。
思い出すにしても、ゆっくりで落ち着いて、ということなのだろう。
だが……彼が起きてからの様子を見るにロイドは記憶が見事に抜け落ちているようだと言った。
理由としては拘束されたことがある子供にしては警戒心が薄く……むしろ俺との初対面、鑑定時の拒絶はなんだったのかと思うほどに人を求め、寂しそうだったのだそう。
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