名前とカルク

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ロイドさんの方を向きいつもと違う服装の彼らを指さして首を傾げると、ロイドさんはブレイクさんやその他の人に何かを話し始めてしまった。それにみんなもなにか言葉を返してお話が始まる。 えー……と。 つまり……? ……これはまた手持ち無沙汰のやつでは? 早々に全く別の事を考えていようと意識を飛ばしかけた時、男の子がベッドに座った僕に近づき声をかけてきた。 「**********」 「……?」 反面の下から覗く唇は緩く口角が上がっていて友好的そうに見える。 男の子もローブを脱いだ下は剣を帯刀しており、さながら小さな冒険者さんだった。僕と同じくらいに見える彼は演劇のような────と言いたいところだけど、実際は実用性を重視したような簡素な格好で、騎士のような典型的な鎧では無く胸当てだけといったような軽鎧だった。 この世界は子供でも武器を持ち歩くものなのだろうか……物騒だ。 男の子が何を言っているのか分からないが僕はしっかりと意識をそちらに向けて保った。と言うのも、彼が自らの胸に手を当てて何かを話し続けるからだ。 「********カルク────」 ────やっぱり。 もしかしたらと思ったけどやっぱりそうだ。名前を言ってくれるのかも、って何となく仕草とか雰囲気から察せたから。 そしてもちろん日本語に似た知らない言葉の発音の中で、名前らしい部分は外国語のような硬い響きで他と違う為やはり分かりやすかった。彼はカルクくんと言うらしい。 カルクくんは僕の前に膝を折り視線を床に落とすと手を差し出した。 それはまるでお姫様が手を置くのを待っている騎士のような仕草で戸惑ってしまう。もし違ったら恥ずかしくて脳が暫しフリーズしてしまったものの、カルクくんがあまりにじっと待つので……やはりそうなのかもしれないと思い恐る恐る手を乗せてみた。 するとカルクくんはぴくりと体を揺らし、緩く、優しく僕の手を握った。 顔を上げた彼には僅かに喜色が伺えて、自分の行動があっていたのだと教えてくれたので密かにほっとした。 まだ日が落ちるには時間が早く、外は明るい。 窓から入る光はカルクくんの赤茶色の瞳をキラキラと照らした。仮面に空いた視界確保用の小ぶりな穴から伺えたそれは嬉しそうに細められていてとても機嫌が良さそうに見える。 なにか嬉しい事があったのかな…… カルクくんは手を離すことは無く、なにかを噛み締めるようにじっとしている。……うん、ずっと視線を感じる。 カチャ──── 比較的落ち着いてドアを開けて入ってきたのは太眉のガタイのいい人だ。 彼は時折見かける時と同じでラフなシャツにパンツといった馴染みのある格好だった。彼も僕になん事か何か言ってからみんなと話し始めてしまった。 ……僕は相変わらず自分を見つめるカルクくんをひたすら見つめ返すという特になんの意味もない遊びをしていた。
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