色に出に蹴り我恋は

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足を踏み出した柚月の左手を大雅が掴んだ。そのまま顔の前にかざして、何かを確認している。 「指輪は…してねぇよな」 「は?」 「結婚はしてねぇよな」 大雅が上目遣いで訊ねる。 「はあ?なに言ってんの!」 手を振りほどき背を向けてスタスタと歩き出した柚月の後を、大雅がついてくる。 「なあ、じゃあ、何で名字が変わったんだよ?」 「親が離婚したんだよ。薬丸は母さんの旧姓。…いーから、説明するよ。接続と電源は従来と同じだよ。PCは、備え付けのものを使って。専用ソフトが入ってるから。……ねえ、近くない?やりにくいんだけど」 デスクに向かって説明している柚月の背後から囲いこむように両手を置く大雅に、画面に向かったまま注意した。 「もう逃げないから離れてよ」 返事がない。どうやらどくつもりは無いようだ。 それどころか、柚月の耳の上に鼻を寄せ、 「お前、なんか良い匂いしねぇ?」 とか言い出した。 「ちょっと!」 柚月は手で耳をガードしながら説明を続ける。元々スキンシップは激しい奴だったが、ここまででは無かった気がする。 どこか色が孕んでいると感じるのは気のせいだろうか。 柚月は邪念を払拭するように説明を再開した。 「カーテンはこっちのボタンで操作して、スピーカーの調整は…」 「でよ、年下の彼氏って何だよ、お前、ショタコンじゃなかったよなぁ」 柚月は後ろを振り向いて大雅の胸を拳で押した。 「いい加減にしなよ、聞いてんの?!」 大雅は悪びれもせず、にやっと笑うと、 「全然聞いてなかったわ。もういっぺん始めからお願いします」 と、のたまった。 柚月は、目をすがめて睨んだ。 「悪かったよ。でもよ、聞きたいことがいっぱいあんだよ。て、ことで今夜一緒に夕飯食おうぜ。こっちの店に詳しくないから、お前がどっか連れてってくれよ」 柚月は、思案した。 もう逃れようがないのだ。こうなったら、隠すことなど何もない。 …密かに抱いていた思い以外は。 「わかったよ。その代わり、あんたの奢りでね」 大雅は、任せとけ、と嬉しそうに笑った。
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