色に出に蹴り我恋は

2/72
387人が本棚に入れています
本棚に追加
/72ページ
周囲の盛り上がりにいまいち乗り切れない柚月は、先ほど見ていた書類に付箋を付けてクリアファイルに入れると、立ち上がった。 「ちょっと、営業部に行ってきます」 と、歩きだしたところで扉が開き、見慣れない三人の若手男性社員が現れる。 事務所内が静かにざわめいた。 (これが噂の婿候補達!) 柚月は目を細めた。 成る程、遠目に見てもそのイケメンぶりが窺える。 皆、背が高くスマートで、髪もバッチリセットされている。 長いこと恋愛から遠ざかり、乾燥気味の生活を送る柚月には眩し過ぎる。 「こちらで名刺を受け取れると聞いたのですが…」 柚月は周りをそっと見回した。 カウンターの一番近くにいて、しかも唯一立っている自分が対応しなければ不自然だろう。 柚月は諦めてカウンターに近づいて顔をあげた。 とたん、凍りつく。 カウンターに並んだ三人の内の1人が、明らかに知った男の顔だった。 …嘘でしょ。 柚月は咄嗟に俯き、どぎまぎしながら備え付けの用紙をカウンターに置いた。 「こちらに名前をお書きください」 記入された名前の中のひとつに確かに奴のものがある。 柚月は必死で平静を装い、お待ちくださいと告げて備品室へと逃げた。 (まさか、こんなところで奴に会うとは!)
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!