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「西支店から来た三人は、社長令嬢の婿候補って噂もあるしね」
大雅は眉を寄せた。
「いや、それはねえだろ」
柚月はコーヒーを啜る。
「原田さんと磯貝は知らねぇけど、俺に関しちゃ絶対無い」
大雅は何故か言い切った。
社長令嬢の華絵様は確か現在大学4年生。清楚な雰囲気の美人だ。来年から系列会社の秘書事務として働く予定だと聞いている。
気取ったところがなく社員からの好感度は高い。
…そういえば、大雅があの頃付き合っていた他校の彼女にどこか面差しが似ている。
「華絵様、結構、大雅のタイプだと思うんだけどな」
何気なく呟いた。
「あ?」
機嫌の悪そうな声に、はっとして大雅を見た。こちらを見て、睨んでいる。
「お前に何がわかんだよ」
柚月は戸惑いながらも訊ねた。
「え、何で怒ってんの?何か気に障るようなこと言った?」
大雅は立ち上がるとテーブルを回り込んで横に立ち、柚月の腕を掴んだ。
柚月は訳がわからず大雅を見上げる。
腕を引かれ一瞬視界が暗くなった。
目の前にジルコニアのピアスが見えて、ようやく柚月は大雅に抱き締められていることに気付いた。
「ちょっ、どうしたの?」
「うるせぇ」
肩と腰に回された手がぎゅうぎゅう締め付けてくる。大雅は顔を柚月の肩に押し付けた。
「畜生、なんなんだお前は。人の気も知らねえで」
呻くような声が耳のそばで聞こえた。
「なんなの?く、苦しいんだけど」
胸の鼓動が激しく鳴り出した。
大雅が上体を離して柚月の肩に手を置いた。至近距離で見つめられ、柚月はどぎまぎして目を伏せた。
「イバタ…いや、柚月」
「な、なに」
「俺はな、お前に…」
大雅の声に被って、知也が呼ぶ声がした。
「柚月~ドライヤーはぁ?」
「今持ってくる~」
柚月は大雅の手を外して立ち上がった。
「ああああーくそっ」
背中から悪態をつく声が聞こえたが、気付かないふりをした。
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