本編

29/72
前へ
/72ページ
次へ
野崎から回ってくる書類を確認しながら、柚月は感心していた。驚くほど正確になった。訂正は殆ど無い。 「あからさまだね。まあ、その分、野崎以外からのアプローチが増えてるけどね。薬丸が美人なのは薄々気付いてたけど、これ程とは…。学生の頃とかモテたでしょ?」 柚月は首を振った。 「全然。怖れられてはいたけどね」 なんたって黒マスクの堕天使だからね。 しかし、野崎の書類の最終ページに差し掛かったところで、1つ不備が見付かった。 野崎本人の押印がない。 柚月は内線で野崎のデスクに繋ぐ。 「総務部の薬丸です。本日提出していただいた116号機試運転の申請書に、野崎さんの印鑑が押されていないのですが」 「あ、すみません。あの、俺これから社内で打合せがあるので…一時間後に第三会議室に来てもらって良いですか?」 妙に礼儀正しくて気持ち悪い。 「わかりました。それでは16時半ごろ参ります」 「お前が来いよって話でしょ」 電話の応対を聞いていた上田が呆れて言う。しかし、しょっちゅう呼びつけられるよりマシになった。そこは評価するべきだろう。理由はなんにせよ、時間のロスは減ったのだから。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

405人が本棚に入れています
本棚に追加