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会議室から出て柚月はぼんやりしながら歩いていた。吹き抜けのエントランスホールに面する廊下に差し掛かり、ふと見下ろすと、大雅の姿が目に入った。
受付の女子社員と話している。
離れていてもすぐわかる。高校生の頃からそうだ。何故か判別できる。
高3の春、隣街で他校の制服を着た女子と腕を組んで歩く大雅を見た。
えらくモテていたくせに彼女を作ろうとしない大雅に、一番近い位置にいたのは柚月だった。
常に隣に座り、大雅の家に入り浸り、ピアスを開け合い、食べ掛けを食べ合い…
好きだから側にいた柚月と、大雅の気持ちは全く違っていたのだと思いしらされた。
彼女がいることを教えてくれてなかった事にも傷付いた。
信用されていない。
あんなに一緒にいたのに、私は親友でさえ無いんだ。
しかし、柚月は大雅に問いただすことも出来なかった。平気なふりをして、いつも通り隣でバカ笑いしながら、自暴自棄に喧嘩に明け暮れ、夜に真っ暗な部屋で1人膝を抱えて泣いた。
その頃には、家に全く帰ってこなくなった父親の代わりに母が夜間の仕事を始め、柚月の孤独感は益々強まった。
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