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繁忙期に入り、社内はにわかにあわただしく殺気立ってきた。
総務部も連日残業、柚月が会社から出て見上げると、営業部の窓にはいつも煌々と明かりがついていた。
「十七夜さん、ここ最近見掛けないと思ったらお休みしているそうなんですよ。今日で3日目ですって」
大雅ファンの後輩が情報を仕入れてきたのは、忙しさもようやく落ち着いた連休前の週の水曜日だった。
柚月はいてもたってもいられず、トイレに行く振りをして、こっそりスマホから大雅にメッセージを送った。
“会社を休んでいると聞いたけど、大丈夫ですか。
病院には行きましたか?”
なぜ敬語…。我ながら不自然。
スマホが鳴るのをそわそわして待ったが、夕方になっても返信は無かった。
帰り道、アパートの近くに差し掛かったところ、話し声が聞こえてきた。何か揉め事だろうか。
今夜は知也が来るかもしれないのに…柚月は眉を寄せた。
角を曲がった前方、アパートの前に、ガタイの良い男と華奢な人物の人影が見えた。
ガタイの良い方が、もう1人の腕を掴んで何事かを大声で言っている。
目を凝らして見ると、腕を掴まれている方に見覚えがある。
そう、知也だ。
柚月は走り出していた。
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