色に出に蹴り我恋は

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柚月は、カウンターの上を思い付いたように整頓しながら答えた。 「ああ、珍しいお名前ですよね」 「今まで、初対面の人に正しく読まれたことがなかったので驚きました」 そうですか…。会話を続けるつもりのない柚月はわざとそっけなく返すと名刺の追加注文の方法について淡々と説明し、 お戻りになられて結構ですよ、と追いたてた。 「いやー、噂通りのイケメンだったね。特にカノウとか言う彼、なんかオーラが滲み出てなかった?」 上田は椅子をキコキコ揺らしながら柚月に問い掛けた。 「そう?」 柚月は、先ほど届けようとしていたクリアファイルを横目で見る。 大雅の配属は営業になっていた。 今行けば、また遭遇するかもしれない。 そんな危険はおかしたくなかった。 柚月は受話器を取って、内線に繋いだ。 「総務の薬丸です。UJコーポレーションへの発注書ですが、これ旧式の雛型を使ってますよね?今月から新様式になっているはずなんですが、え?更新してない?いや、それじゃあ困ります。内訳も一式じゃなくて数量を記入するように前回言いましたよね?は?……わかりました」
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