付き合う?

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付き合う?

 付き合う? この人が?……わたしと?    信じられなくて、返事することも動くことすらできなくなったわたしに、くすっと笑いながらまた声が降ってきた。   「大丈夫? 聞いてる?」    優しいその声色に安心し、ゆっくりと顔を上げていくと、そこにはいつも見ていたあの楽しげな笑顔があった。それだけじゃない。その笑顔はまっすぐわたしを見ているのだ。何が何だか分からなくなって、何度かまばたきをしながら言葉の意味を振り返って、それからようやく何度も頷くと、笑顔はさらに目を細めて楽しげなものになった。   「君、よく同じ電車にいたよね? 名前なんて言うの?」 「宇月……。宇月、真由子です」 「へぇ。真由子ちゃん。かわいい名前だね。で、どうする? 付き合う?」   『真由子ちゃん』。自分の名前がこんなに甘く聞こえるだなんて、初めてだった。付き合うなんて信じられないけど、そうしたらもっといっぱい名前を呼んでもらえるのかな。それなら嬉しいな。   「あの、でもわたし……で、いいんですか……?」    だって……。 『見た目も性格も地味で、こんなに眩しいあなたに釣り合うはずなんてないのに』。    このセリフはなんとか口に出さずに喉元に留める。いつも心の中で自分を卑下してしまうわたし。だけど彼にそんなつまらないわたしに気付かれたくない。彼の前だけは、少しでも素敵なわたしでいたいもの。   「前から可愛いなって思ってたんだ。だから、ね。付き合おうよ」    今度こそ驚きのあまりに声が出なくなって、でも嬉しくてちゃんと返事をしたくて、わたしは何度も頷いた。
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