初めての。

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初めての。

 わたしが降りたのは、この辺りではいちばん大きな駅。ときどき本を買いに寄ることもあったけれど、今日はいつもの本屋ではなくドラッグストアに入る。  店内に並ぶ化粧品。ファンデーションに口紅、アイカラーやマスカラ。前に立つのも初めてのキラキラしたコーナーに緊張しながら通路を歩く。    ファンデーションの色? 口紅ってこんなに赤いの? マスカラのカールって何? ロング? わたし、何を使えばいいの?    分からないものだらけの前で、何も分からない自分が情けなくて、この場所に立っていることすら恥ずかしく思えてくる。   「あっ、ねぇねぇ。これ可愛い!」    そのとき、わたしとは別の高校の制服を着たふたり組が通路に入ってきた。サラサラと肩に流れる髪や短いスカート、ほんのり赤い唇はいかにも今どきの女子高生といった感じ。今まではこんな世界の違う人たちとは関わるのが怖くて離れるようにしていたけれど、今はその洗練された雰囲気が羨ましくて仕方がない。楽しそうに化粧品を試しているふたり組にますます気が引けてしまい、わたしは逃げ出すように通路を離れた。  
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