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感染症終息の兆しが見えてきた頃、活気のある居酒屋の個室で、三十代の女医のマキと由美がジョッキを傾けていた。
「マキって、最近お疲れ気味だけど?」
「そう見える?」
「見える」
「そうなんだ」
「自覚ないんだ」
「うん」
「うんって……あんたも医者なんだから、自覚持ちなよ」
由美が空になったジョッキを持ち上げ、通りかかった店員に御代わりを伝える。
「昔からタフなあんたが顔に出ているって事は、相当患者が多いんだね」
「……うん。まあね」
「そんなに泌尿器の患者が来るの?」
「……いや、専門外ばかり」
マグロの刺身に箸を伸ばす由美が、吹き出した。
「どこも同じだね。うちも専門外の感染症ばかり扱っているけど、人手が足りないから駆り出されている。そっちも、足りていないんだ」
「足りては……いるけど」
「使えないのばかりとか?」
「自己主張が多いの」
刺身を頬張る由美が、首を縦に振る。
「ああ、いるよねぇ。出来もしないのに主張するのって」
――そっちじゃないんだけど。
マキは、由美の目を見て苦笑した。
★★★
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